研究概要 |
1.イオンラジカル種の反応の立体特異性ー三種のアルキル置換および重水素によって標識したビシクロ〔220〕ヘキサンを合成し, 電子受容体存在下に光照射したところ, 良好な収率で1.5ーヘキサジエン誘導体に環開裂した. 反応の立体特異性は, 基質の酸化電位が低いほど, また電子受容体の還元電位が高(正の方向に大)いほど高くなる傾向が認められた. この結果は, 逆電子移動が環開裂と競合していることを示唆し, 陽イオンラジカル種の環開裂が段階的反応でありながら, かつ立体特異的に進行することを示す. 2.小員環イオンラジカルを利用した合成反応の開発ースピロ型に結合したシクロプロパン化合物, 4ーチアジスピロ〔2122〕ノナーBーエンおよびスピロシクロプロパンフルオレンとその置換体を合成し, TCNQ, TCNE等の電子求引性不飽和化合物との反応を検討した. その結果, いずれも環開裂を伴った環化付加反応を行うことが見い出された. これらの反応は, 電子移動によって開始されるイオンラジカル経由の反応と考えられる. 前者の反応は, テオフェノファン類の合成法として有用である. 3.特異な骨格をもつ新規化合物合成への利用ー14位を架橋したデュワーベンゼンについて, その陽イオンラジカル生成条件下(電子受容体存在下の光照射)に各種親核試剤との反応を検討した. その結果, それらの親核試剤が, 形式的にデュワーベンゼンの中央シグマ結合に付加することを見い出した. またその過程で, それまで未知の最高度にひずんだベンゼン誘導体である〔4〕パラジクロファンの生成を確認した. 次年度は, 上記の各項目について, その展開をさらに計る予定である.
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