研究概要 |
1.イオンラジカル種の反応の立体特異性。三種のメチル置換および重水素標識ビシクロ〔2.2.0〕ヘキサンを合成し、光増感一電子酸化条件下での反応挙動を検討した。反応は1,5ーヘキサジエンを主生成物として与えたがおおむね立体化学保持で進行し、シクロヘキサンー1,4ージイル、カチオンラジカル種では舟型配座がエネルギー極小にあり、椅子型/ねじれ舟型配座への転位にはエネルギー障壁の存在することが明らかとなった。また反応の立体特異性が電子受容体の還元電位に依存し、環開裂が逆電子移動と競合していることからカチオンラジカル種における環開裂速度についての知見を得た。 2.小員環イオンラジカルを利用した合成反応の開発。4ーチアジスピロ〔2.1.2.2〕ノナー8ーエンおよびスピロシクロプロピルオレンとその置換体を合成し、TCNQ、TCNE等の電子求引性不飽和化合物との反応を検討した。その結果、環化付加物が得られたが、いずれも熱的電子移動によって開始されるイオンラジカル経由の反応と考えられる。前者の反応では、中間体カチオンラジカルの安定化と三員環開裂の促進にエーテル系溶媒が大きく寄与することが明らかとなった。またこの反応は、チオフェノファン類の合成法として有用である。 3.特異な骨格をもつ新規不飽和化合物合成への利用。デュワーベンゼン誘導体を中心とする高歪化合物の光増感一電子酸化条件下での反応挙動に検討を加えた。その過程で、それまで未知の高度にひずんだベンゼン誘導体である〔4〕パラシクロファン、新規な共役不飽和環状系であるビシクロ〔4.2.2〕デカペンタエン、オルト-キノノイド構造をもつトロポン化合物である3,4ーベンゾトロポンの生成に初めて成功した。
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