熱帯地方の発展途上国への旅行者が往々患う急性の下痢、いわゆる旅行者下痢は毒素原性大腸菌の感染が主たる原因とされている。これまでに毒素原性大腸菌の病原因子の一つである耐熱性エンテロトキシン(ST)は、筆者らと欧米の研究者らによって、19及び18個のアミノ酸残基からなる2種存在することが明かにされた。また、エルシニア・エンテロコリチカ、non-01コレラ菌、Vibrio mimicusから分離されたSTについても、それらのアミノ酸配列が決定されている。また、筆者らの研究から、これらのSTの毒性発現には、分子内ジスルフィド結合を形成している6個のCysを含む13個のアミノ酸配例によって形成される立体構造が必要であることが明かとなっている。本年度は、STの毒性発現構造並びに作用発現を解明することを目的として、STを構成するアミノ酸残基を1残基づつ対応するD-アミノ酸残基に置換したSTアナログおよびN-末端のアミノ基を水素に置換したアナログ合せて19種を合成し、それらの生物活性について調べた。その結果、1)毒素原性大腸菌豚由来株の産生するST(STp)の5位をD-Cysに置換したアナログはSTpと同等の強さの毒性を示す。また、他のSTにおいても、同様のアナログは対応する天然STと同等の強さの活性を示す。2)5位をD-Cysで置換したSTpアナログはSTpより毒性が長時間持続する活性持続型アゴニストである。3)STpおよびD-Cysで置換したSTpアナログの核磁気共鳴スペクトルの解析からSTpは5位から9位、10位から14位、14位から17位のアミノ酸配列にターン構造をもち、STpの毒性発現には、10位のCys残基から14位のCys残基に至るループ構造が重要な役割を果たしていることが明かとなった。
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