チトクロームP450やヘモグロビンMは、ポルフィリン鉄錯体の第五配位子にそれぞれチオラート、フェノラートを配位子とする。これらのヘテロ原子アニオンが配位したモデル錯体を合成し、その酸化還元挙動を調べることにより、反応機構を明らかにし、さらには人工金属酵素を開発することを目的とし、以下に示す研究結果を得た。1)ヘム蛋白モデル錯体となるようなポルフィリンとして従来から知られているテトラフェニルポルフィリン(TPP)、オクタエチルポルフィリン(OEP)にかわるようなポルフィリンすなわちメソジアリルエチオポルフィリン(DAEP)を合成し、有用性を検討した。その結果、DAEPはTPP同様に化学修飾が容易で酸化還元電位はOEPや生体内に存在するプロトポルフィリンに類似していることがわかった。2)第五配位子にクロル、フェノキシド、チオフェノキシドであるDAEP鉄(III)錯体(高スピン)を合成し、その酸化還元挙動をジクロロメタン中、サイクリックボルタンメトリーにより測定した。その結果、酸化還元スキームはTPP鉄錯体と同様であることが判明した。さらにフェリキシド、チオフェノキシド配位鉄錯体は、新たな酸化還元波が観測され、薄層電解法による吸収スペクトル、ESR、IRスペクトルデータより軸配位子の一電子酸化過程であることが判明した。3)含タンパクモデル合成の一環として合成高分子へのDAEP鉄錯体の導入を試みた。スチレン・クロロメチルスチレン共重合体に4-メルカプトフェノールを反応させフェノール構造を導入し、DAEP鉄錯体をフェノラートを介してイオン結合で高分子に導入した。本ポリマーの酸化還元能は、低分子と大差はなかった。ヘテロ原子アニオン配位のポルフィリン鉄錯体の可溶性ポリマーの合成にはじめて成功した。今後他のポリマーに導入を試みる。
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