研究概要 |
イオンクロマト法で土壌、底質中の塩素、臭素を定量するための基礎的条件を検討した。この場合、共存する有機物、とくに有機酸が妨害となるので、これを除去するためにNa_2,C0_3を添加して乾式灰化を行った。残留物を水で抽出したときの塩素の回収率は低く、その原因は加熱時の塩化水素の揮散によるものと推定した。これに対して臭素は定量的に回収され、原試料中に50ppm以上の臭素が含まれているときは、乾式灰化-水抽出-イオンクロマト法による定量が可能である。 土壌、底質中の塩素をなんらかの方法で水溶液中に取り出した場合を想定し、共存する有機酸と塩素を分解するために硫酸中に加えて蒸留する方法を検討した。硫酸濃度 40〜50%、蒸留温度125℃の条件下で10μgの塩素を定量的に分離することに成功した。土壌試料を直接硫酸に加えて塩素を留出させることも試み、回収率として95%の値を得たが、再現性に問題が残された。 神奈川県葉山町の森戸川から採取した底質中の塩素、臭素を中性子放射化法で定量するとともに、炭素、窒素量をCNユーダーで求め、これらの含量の間の相関を検討した。臭素含量と炭素または窒素含量との間にはよい相関がみられた。ただし、炭素含量と窒素含量との間にも極めて高い相関があるために、有機物中の炭素、窒素のどちらが臭素の保持に機能しているのか判断できなかった。このことは開田による湛水化が土壌からの臭素の溶出を促進することと対比したとき、土壌、底質の酸化還元状態が臭素の挙動に影響することを示唆している。同時に臭素の地球化学サイクルにおいて、河川水中の懸濁物(土壌粒子)が運搬する臭素の量が無視しえないことも明らかにした。 今後はこの結果を全地球的規模における塩素、臭素の移動量の評価に結びつけ、人類活動の寄与を推定する方向へ進めることが必要である。
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