東京都下の多摩川上流部において直接的な人類活動のない沢から水を採取するとともに、その周辺地域において大気降下物を捕集し、化学分析を行った。分析結果から、Cl、Brが地表に降下してから沢水とともに流出するまでの挙動を研究した。水の蒸発散率、森林による大気浮遊粒子の捕集効率を考慮すると、降下したClのすべては沢水中に流出することが推定された。これに対してBrはその一部だけが沢水中に流出し、かなりの部分が土壌によって保持されていることが結論された。 土壌中にBrが濃縮していることを立証するために、土壌と河川の底質中のCl、Brを中性子放射化法によって定量した。また、これらの試料中のCl、Brをイオンクロマトグラフ法で定量するための分離法についても検討した。試料を硫酸とともに加熱し、Cl、BrをそれぞれHCl、HBrとして蒸留した。土壌中のClの平均回収率は95%であったが、再現性の点で改善の余地が認められた。Brをこの方法で分離することは難しく、それよりは土壌にN_2CO_3を添加した後、電気炉中で450℃に加熱し、残留物を水で抽出する方法が有効と判断された。 土壌ではC含量とBr含量との間に明瞭な相関は認められなかったが、河川底質(神奈川県葉山町の森戸川上流において採取)においては両者の間に比例関係が見出された。このことは土壌中の有機物のすべてがBr保持に有効に作用するものではないことを示唆している。また。土壌がBrの地球化学的サイクルにおいて重要なレザーバとなっていることも明らかとなった。陸から海へのBrの移動においては、河川水中の溶存態のBrばかりでなく、懸濁物に保持されたBrも評価すべきである。 今後はこの結果を全地球的規模における塩素、臭素の移動量の評価に拡張することが必要である。
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