白色絶縁体鉱物としての石英・長石・石灰岩などと放射線との相互作用により、極一部の電離電子とイオンはそれぞれ捕提電子・正孔として準安定な状態で絶縁体中に留まる。これらは加熱励起により、励起エネルギーの一部を光として放出し元の安定状態へと戻る。この時観察されるのが熱蛍光と呼ばれる現象である。当研究ではまず第一に熱蛍光現象の観察法のいくつかにつき試み、従来法と比較して飛躍的にこの方面の発展に寄与出来た。その一つは高感度カラーフィルムを使用した写真観察法であり、簡便な方法にもかかわらず貴重な情報が得られることがわかった。すなわちこの方法をTLCIと名付け、人工および天然石英試料観察に適用したところ、従来より報告されていた青色領域の発光以外に、赤色発光を示す一群の石英が存在することを世界に先駆けて見出した。より定量的な観測法の開発は、光子計数を基本としたパソコン制御の熱蛍光測定装置の開発である。加熱部分にセラミックスピーチを使用したことから通常の100V電源での使用が可能となった。この装置により、青赤両石英の発光曲線を解析した結果、前者は中線量領域において超直線性を示しており、後者は比較的高吸収線量域まで直線性を有していることから、熱蛍光年代測定には後者(赤色観測)が適していることを、初めて提案した。実際の試料についてもナウマン象化石骨関連地層について赤色熱蛍光年代測定法をこの分野で初めて適用した。第3の観測法の開発は、弱い発光としての熱蛍光のスペクトル測定を、分光器とイメージインテンシファイヤーを用いてオンライン測定する光多重瞬間分光器(PMA)の実用化である。青色赤色熱蛍光の原因と考えて来た不純物元素を混入させた合成ガラスを作成し、このPMA装置で観測したところ、合成石英ガラスはいずれも高波長領域に3本の発光スペクトルを示しており、天熱石英からの熱蛍光スペクトルと大幅に異なっていた。
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