研究概要 |
誘導結合高周波プラズマ(ICP)発光分析法の感度と選択性を飛躍的に向上させる目的でオンライン分離濃縮を組み入れるシステムについて検討した. 本年度においてはオンライン気化導入法について特に,水素化物気化法と黒鉛炉加熱気化法について詳細に検討した. これらの結果の概要は次の通りである. (1)水素化物気化導入法ここでは原子吸光法で十分な感度が得られないゲルマニウムを対象元素に選び,小型で高性能なオンライン前処理システムを確立し,標準化した. すなわち,還元系にNaBH_4溶液とリン酸塩緩衝溶液(pH 6.5)を用い,1mlの試料溶液をまず緩衝溶液と混合し,ついで NaBH_4溶液と混合してGeH_4を発生させる. GeH_4はテフロン製多孔性膜チューブ気液セパレーターによって液相から分離し,オンラインでICPに導入してゲルマニウムの発光強度を測定する. この方法による検出限界は0,4ng/mlであり,原子吸光法に比較して約360倍の感度向上を達成した. RSD(n=10,Ge10ng/ml)は3%であり,1時間当り約150検体の分析が可能である. 本法を単結晶ヒ化ガリウムならびにポリエチレンテレフタレート樹脂中のゲルマニウムの定量に適用し,十分に実用しうることを確認した. (2)黒鉛炉気化導入法 この方法は5〜50mlの微小試料で足り,直接溶液噴霧導入法に比べて高度感が得られる特長をもつが,共存元素の影響を大きく受ける難点がある. この点を改善して実用性を高めるため,カドミウムと鉛を対象元素に選びmatrix modifierによる干渉抑制法について検討した. 共存元素の妨害を抑制するためには,黒鉛炉上で気化後,テフロン輸送管へ送入するまでに起こるチャンバー内壁への吸着量を少なくし,かつ一定にすることが有効であることを確認した. そのためには,共存イオンのほぼ100〜500倍量のリン酸を添加することが極めて効果的であり,共存イオンの干渉を完全にマスクできることを明らかにした.
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