63年度は具体的に以下に記す三つの反応系について研究し、前年度の結果と合せ、溶媒交換反応や錯形成反応の圧力効果を総合的に検討し、特に配位構造や分子のかさ高さと反応機構の関連を解明した。 1.Cu^<2+>のエチレンジアミン交換反応 エチレンジアミン中の^<14>N-NMRを測定し、二座配位子として働くエチレンジアミンの動的挙動を明らかにした。銅イオンはアキシャル方向に伸びた八面体構造をとっており、ΔV【thermodynamics】=4.0cm^3mol^<-1>から解離的機構で交換が起っている。 2.四面体型ベリリウム(II)イオンの錯形成反応 溶媒としてDMFとかさ高いテトラメチル尿素(TMU)を用い、トロポン誘導体との錯形成反応速度を高圧力下で測定した。活性化体積はDMF中では負であるのに対し、TMU中では正の値となり、溶媒がかさ高くなると立体障害のため機構は解離的になることを実証した。 3.ニトリル中のニッケル(II)イオンの溶媒交換反応の活性化体積 交換反応の活性化体積に及ぼす影響を知るため、大きさの異なる六種のニトリル中で、ニッケル(II)イオンの溶媒交換反応を高圧^<14>NーNMR法により研究した。ニトリルのモル体積は、53から105cm^3mol^<-1>と大きく異なるにもかかわらず、活性化体積はどのニトリル中でも約13cm^3mol^<-1>と等しい。このことはニトリル中のニッケル(II)イオンの溶媒交換反応はいずれも解離的に進行し、活性化体積と溶媒のモル体積は無関係であることを示している。 以上のように当初の研究計画通り研究を遂行することができた。
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