昨年度までの結果により、銀イオン交換ゼオライトの触媒活性の水素による増進効果は、銀イオンクラスタ-の存在により気相水素と表面プロトンとの間に平衡が成立しており、気相水素と平衡にあるプロトンの活性が非常に高いためであることが明らかにされていた。また、同様の事実はヘテロポリ酸の銀塩でも観測された。本年度は昨年度からの研究を継続するとともに、反応系を拡大し、遷移金属-ヘテロポリ酸複合系においても水素の存在による活性増大効果があることを見い出した。この系では、遷移金属上で解離した水素がヘテロポリアニオンとの相互作用によりプロトンに転換される可能性があるからである。12-タングストリン酸のパラジウム塩を触媒とするメタノ-ルの炭化水素への転化反応を行なったところ、触媒活性は水素共存下で高く、窒素共存下では低いことが分かった。また、水素の共存効果は可逆的であった。メタノ-ルの炭化水素への転化反応は酸性点(プロトン)の存在による反応であるが、パラジウム自体が活性種であるメタノ-ルの分解反応は水素の存在により影響をうけなかった。水素による反応促進効果はパラジウム(または白金)とヘテロポリ酸を共担持した触媒においても観測された。しかし、パラジウムまたはヘテロポリ酸だけを担持した触媒の活性は低く、水素共存効果も観測されない。すなわち、活性の発現には両者の共存が必要であることを示しており、水素共存効果に対する先の機構を支持している。パラジウム-ヘテロポリ酸複合触媒は、n-ヘキサンなどアルカンの異性化に対しても水素共存化で高い活性を与えることが明らかになった。
|