研究概要 |
工業プロセスで用いられていた水銀の使用量は, 工業化学の発達によって著るしく減少したものの, 他の科学分野に関連した使用量は家庭用用途を含め, きわめて膨大な量にのぼっている. これのともなって都市廃棄物を経由して大気圏あるいは水圏に放出される量も莫大なものとなっている. これらの水銀を効率的に回収除去することは, 環境保全の面から極めて重要であることは当然のことである. これらのうち, 水銀イオンとして排水中に放出されるものの回収除去には現在, 各種の方法が用いられているが, 性能ー価格の総合評価からは未だ満足すべきものはないと言えよう. 本研究では, 工業的に安価な供給体制にあるオリゴブタジエンをシリカゲルあるいはアルミナ等多孔質物質に担持させることで水溶液中から水銀イオンを選択的に効率よく除去し得るという発見に関するものである. 今年度は多孔質担体として上記2種のほかに活性炭についても, 液状ブタジエンとの間に相乗効果があることを明らかにした. また, 〓填カラム式流通法を用いることによって100ppm濃度の水銀イオン溶液を環境基準値の5ppb以下の濃度に低減させうることを予備実験的に確認した. 水銀イオンの透過あるいは吸着の現象を理解し, あるいは新たな水銀イオン除去法の開発の可能性を調べるため, 含浸膜法による水銀イオンの輸送を調べた. その結果, オリゴブタジエンは水銀イオンを特異的に拡散受動輸送することが判明した. またオリゴブタジエンのエポキシ化物から誘導されるオリゴオキシエチレン化物ではその輸送速度が大きくなるものの, 水銀イオンにより大きな親和力を持つと考えられるメチルスルフィド化物では拡散輸送はむしろ抑制された. 一方, 受相に臭化物塩,チオシアン酸塩あるいは炭酸水素ナトリウムを添加することによって能動輸送が可能となり, 受相への濃縮が起った. この場合にはメチルスルフィド化物も大きな輸送速度を示す事を明らかにした.
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