水銀は、化学工業技術の発達と環境保全の意識の徹低から、触媒化学工業に用いられるものは実質上なくなったと考えられるが、電池あるいは蛍光灯等家庭用用途にはますます多量に使用される傾向にある。従って家庭廃棄物を経由して、ゴミ処理場から大気圏や水圏に放出される水銀の総量は莫大な量にのぼると見積られている。この内、水溶液として放出される水銀(II)だけに注目しても放出時の形態が、希薄であったり、夾雑物の種類と量が多様であること等から、これらを効率的に回収除去する実際的な方法はない。本申請人らは液状ポリブタジエンーシリカゲル系複合物が水溶液から選択的に水銀(II)を吸着することを発見した。本年度は(1)工業的に製造されている液状ポリブタジエンのエポキシ化物に、水銀に対して強い親和性を示すスルフィド基を導入してその吸着性能の向上を計ると同時に、(2)水銀(II)がハロゲン化物イオンと錯形成するとポリブタジエンあるいはそのスルフィド化物に対する親和性をなくすことから、シリカゲルとポリブタジエンの界面に臭化ナトリウム等水銀(II)と錯形成しうる塩を担持させて、水銀(II)吸着容量の増大を計った。更に、液状ポリブタジエンあるいはその誘導体の性質を利用して、新しい水銀(II)除去システム構築の可能性を明らかにすべく、これを液膜とした水銀(II)の拡散輸送および能動輸送・濃縮を検討した。その結果(3)水銀(II)は高い選択性をもってこの液膜を透過すること(4)液膜構成成分のポリブタジエンのスルフィド化によって輸送速度がその含有量に比例して増大すること、(5)受相にハロゲン化物塩を溶存させることによって能動輸送・濃縮が起ること、(6)濃縮に必要な最低ハロゲン化物濃度が存在すること、(7)(6)の濃度以上のハロゲン化物イオンが存在しても水銀(II)の輸送速度はもはや変らないこと、などの因子を解明し、全く新しいタイプの水銀(II)吸着システム開発の可能性を明らかにした。
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