研究概要 |
蚕品種の交雑によって新に産生された細繊度系(MK×MKII), 太繊度系(N5D×N43)および少セリシン系(LS928×LS789)絹糸の染色性を在来種(N137×C137)絹糸と比較検討する目的で, 昭和62年度はそれら絹糸の化学的性質の一部について調べた. 染色性に関係すると考えられる灰分量は, 生糸においては太繊度系が細繊度系および少セリシン系よりも0.07%, 在来種よりも0.06%多く, 練り糸においても太繊度系は他品種よりも0.02〜0.03%多かった. これは繊維中に含まれる金属(Ca, Mg, Ma, K, FeおよびMn)の量が太繊度系は他品種よりも多いことに由来することが認められた. 繊維中に含まれる重金属と染料との結合は, その含有量によっては金属と染料との錯体を形成し, 染着量の増大と色相の変化をもたらす. このことから練り系中に含まれる量に相当する金属と酸性染料(均染性タイプ1種, ミリングタイプ2種)および金属と錯体を形成しやすい媒染染料とを溶液中で反応させ, 吸収スペクトルの変化を調べた. その結果吸収スペクトルにはほとんど変化がなく, 練り系中に含まれる量の重金属(Ca, Mg, FeおよびMn)は染色性に対して影響しないことが認められた. しかし, 絹糸中含有量が最も多かったCaでは, その量が5倍になればミリングタイプの染料および媒染染料では錯体生成による沈殿が認められ, 練り系よりもCa量が約5倍多い生糸の染色に対しては染着量が増大することが示唆された.
|