絹の新しい素材用として開発された極細繊度系および極太繊度系絹糸の染色性を在束種絹糸と比較検討した。 1.染色性に影響すると考えられる絹糸中の灰分量は、太繊度系絹糸は他系統のものよりも生糸で0.07%、練糸で0.02〜0.03%多く、太繊度方向への育種のため蚕体の代謝に何らかの影響を及ぼしたと考えられるが、系統間では染色性に影響するほどの差は認められなかった。 2.絹糸に含まれる金属のうち最も含有量の多いカルシウムは、練糸に含まれる程度の量では染料と反応しないことが吸収スペクトル変化から認められた。しかしその5倍量、すなわち生糸に含まれる量となれば不均染性酸性染料および媒染染料と錯体を生成して沈澱を生成することが認められ、生糸の染色にこれらの染料を用いた場合、染着量の増大に寄与することが示唆された。 3.均染性酸性染料による染色で染浴のpHが4以下では、細繊度系絹糸は他系統絹糸よりも1.4〜1.6倍の染着量を示した。しかし不均染性酸性染料に対してはこのような大きな差は認められず、実験したpH域で染着量に細繊度系>太繊度系>在束種の順となることが認められた。 4.繊度の異なる絹糸を同一染浴中で染色した場合、概して細繊度系絹糸の染着量が他系統絹糸よりも高く、中でも不均染性酸性染料および反応染料でその差が著しかった。太繊度系絹糸と在束種絹糸とは繊度差があまり大きくないこともありほとんど等しい染着量を示した。 5.酸性染料による染着速度の比較から、細繊度系絹糸は他系統絹系よりも染色開始後1時間までの染着速度が大きく、この差が染浴のpHおよび同一染浴中からの系統間の染着量の差として示されたと考えられる。
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