電気浸透による土壌溶液の移動による応用的研究を進展させるためには使用する電極を安価で耐久性に優れ、持ち運びに便利なものを開発する必要があった。そこで、本研究ではまずこの目的に合致する電極を種々試作した。その結果、導電性の高い炭素微粒子を素材に分散させたゴム電極を開発するのに成功した。本電極は水中では銅電極の98%の電導効率を示すと共に、電極面での酸化による劣化は著しく抑制された。また、土中では電極板に塩の付着は認められるものの、酸化劣化は起らず、5ヶ月間連続使用(25V、電流密度100mA/cm^2)でも電極は十分に耐え、本研究の目的を遂行する電極として適することを証明した。土壌の電導性を高めるために土壌に各種塩水溶液を加えて塩類土壌を創出し、検討した結果、陽極側にアニオンが急速に移行し、陰極側に強アルカリの土壌溶液の移動とともにカチオンが移行した。しかし、イオン種によって移動パタ-ンは異なりアニオンではCl^-≧NO_3^->SO_4^<>>PO_4^<3->と荷電数の小さい方が移動速度は大きかった。カチオンではNa^+とK^+、Ca^<2+>とMg^<2+>は同じ荷電数でもその移動パタ-ンは著しく異なった。有機酸およびアミノ酸も電気浸透で移動したが、土壌溶液中には低濃度ながらかなりの未同定物質があった。アブラナ根こぶ病菌はアブラナ根に絶対寄生する防除困難な連作病害であるが、その病兆に特徴があるため、電気浸透下で本菌がどのような行動をとるかを検討した。実際のフィ-ルドとほぼ等しい大きさの区画にチンゲンサイを栽植し、アブラナ根こぶ病菌を土壌に接種し、電気浸透下10回連作したところ、陰極側に明らかに根こぶ病罹病個体が多い傾向にあることがわかった。陰極側はpHが高く、根こぶ病菌の化学環境としては本来不適であるにも拘わらず、罹病個体が多かった事実は、土壌溶液の移動に伴い、それに浮遊して陰極側に移動せざるを得なかったものと推論した。
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