研究概要 |
イネ種子が胚盤上皮細胞において合成し, 胚乳に分泌するデンプン加水分解酵素は高等植物を材料としてもっとも詳細に研究された分泌型糖タンパク質である. これが, AsnーNー結合型のオリゴ糖鎖をふくむこと, またいわゆる高マンノース(S)型および複合(R)型糖鎖を含むことなどがいろいろの実験的根拠から明らかにされてきた. いま一番緊要な研究課題はこれ等オリゴ糖鎖の化学構造の確立と,Sー型,Rー型の糖鎖の生合成のメカニズムの解明である. しかし乍ら, イネ種子そのものを用いるときは, この研究を進める上でどうしても技術的困難を伴う. この為, 今年度は胚盤上皮細胞の液体培養系を開発し, この系においても, Sー型, Rー型糖鎖をもつαーアミラーゼが培養液に分泌されるか否かに焦点をあてて研究を進めた. その結果, イネ種について観察されたと同じ結果が得られた. 即ち結論的には, 液体培養系によって分泌型糖タンパク質αーアミラーゼ生合成を研究する道が拓かれた. このことは多くの点で利点をもっている. たとえば諸々の環境条件の下において, 温度, 塩, 無機イオン, 抗生物質等の阻害剤の影響を調べる上で, 種子そのものに比べて液体培養細胞ははるかに好適な実験材料である. かつまた培養液に分泌されるタパク質のなかに占めるαーアミラーゼの割合が圧倒的に大きいことから容易に精製しえることも明らかになった. このことは上述の糖鎖構造の決定という研究目的の上からも甚だ好都合である. しかし, より根本的な課題は, αーアミラーゼの多型性の本質, とくにその生合成を支配する遺伝子発現の調節機作であり, 現在これに焦点をあて研究をすすめている. この線に沿って, 種々の胚細胞からgenonirDNAの分離精製の実験を進めている.
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