我々は枯草菌のツニカマイシン耐性変異株のうちで同時に2-アミラーゼの高生産性を付与された株の解析から、枯草菌において個有遺伝子の染色体上の遺伝子増巾現象をはじめて見出した。またこの遺伝子増巾は形質転換によって受容菌にも誘起することが出来、その形質転換DNAの必須構造を明らかにしてきた。本研究はさらにこれまでの知見を敷衍し、枯草菌染色体のどの領域においても遺伝子増巾を誘起しうる形質転換法の確立、外来遺伝子の枯草菌染色体上への増巾、およびこの遺伝子増巾現象を利用しての物質生産への応用を目的としている。またこの遺伝子増巾に関与するツニカマイシン耐性遺伝子timrBの機能の解明も行う必要がある。 本年度はtimrBの遺伝子の機能の解析を行った。timrB遺伝子は我々により既にクローン化されているが、この遺伝子の想定オープンリーディングフレーム(DRF)が正しいかどうかを確かめるためmRANのスタートポイントの決定をまず行った。SIマツピングの結果は想定のORFの開始ユドンの196p上流のAより転写が開始しており、想定ORFが正しいことが示された。ついでtimrB遺伝子の機能を明らかにするために^3H化ツンカマイシンを調製した。timrB遺伝子を多コピー持つ枯草菌と1コピー持つ野生菌を用いた^3H-ツニカマイシンの分解や修飾についてしらべた。生菌そのもの、或は菌の粗抽出液を用いた場合もツニカマイシンの分解、修飾は認められなかった。またtimrB遺伝子を多コピー持つ枯草菌の膜標品を調製し、N-アッセチルグツユサミンのリピド中間体形成反応をしらべたが本反応はツニカマイシンに対して耐性になっておらず、耐性化の構造は未だ明らかでない。しかしツニカマイシン耐性になるためにはtimrB遺伝子が増巾されねばならず、遺伝子増巾の誘起には必須の遺伝子であり、よく用いられるcat遺伝子と同様に有用である。
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