研究概要 |
システインプロテイナーゼは通常のタンパク質分解反応のみならず、非通常反応であるタンパク質のアミノ基転移をも有効に触媒するので、これを利用すればタンパク質分子にアミノ酸エステルをペプチド結合状に転移させることができる。筆者らは、パパインを用い、ゼラチンにロイシンドデシルエステルを導入して新しい界面活性剤を開発した。このものは水溶液中で水の過冷却を安定化、不凍性を維持する機能を示した。しかし、このような物質を作製するとき、パパイン反応を調節するためのインヒビターの使用が必須であった。筆者らのグループは、食品起源のシステインプロテイナーゼインヒビターの発見を意図して種々検索を行った結果、コメ種子中にそれが存在することを見いだし、オリザシスタチンと命名して詳細な研究に入った。オリザシスタチンはコメ(中生新千本)胚乳部に存在し、リン酸緩衡液抽出、硫安塩析、各種クロマトグラフィーによって容易に精製された。分子量は11,500の小型タンパク質で、pHおよび熱に対して安定であり、工業規模でのパパイン反応を調節する上にきわめて有用であると考えられた。 次いで、イネ未熟種子からmRNAを抽出し、逆転写によってcDNAライブラリーを作製した。オリザシスタチンの部分一次構造をコードするオリゴヌクレオチドをプローブとし、このライブラリーからオリザシスタチンcDNAを単離し、クローン化に成功したので、塩基配列の解析から、オリザシスタチンの全一次構造を決定した。さらに、このcDNAの5′末端および3′末端を削除したものを大腸菌に導入し、N末端およびC末端の切断されたオリザシスタチンを造成した。これにより、さらに小型のパパインインヒビターを大量に入手することが可能になった。現在、上記したパパイン触媒転移反応の調節にこの種の小型オリザシスタチンを適用し、満足すべき結果を得つつある。
|