研究概要 |
高等動物の生体はたった1個の受精卵から分化・増殖し,正確に形態形成されたものである. 種々の組織の多くはターンオーバーし, ホメオスタシスを維持しているが,この際未分化の細胞からの分化・増殖と正確な位置への移動などによる再構成がおこる. これらの方向づけと決定は細胞の置かれている時間的・空間的位置と内部環境因子によって制御されているが, これらの制御に何らかの異常があれば奇型やガンが発症する. 食品成分として体内に取込まれた物貭の種類と濃度はこの内部環境因子を支配するものとして極めて重要である. このような観点から細胞の分化・増殖に関する制御因子としての食品成分の生理機能を究明することは重要であり, 本研究では培養下で分化・増殖を制御しうるような高等動物由来の培養株細胞をモデル系に用いて以下のような成果をえた. 胎児性ガン細胞F9はDMEM培地中では幹細胞様の性状を呈し,多様な細胞に分化しうるが,ビタミンA酸の存在でprimitive endoderm様細胞へ,またビタミンA酸とcAMPが共存するとparietal endoderm様細胞へと分化する. この変換機構を分泌蛋白質ラミニンmRNAの発現を指標として検討したところF9の分化誘起にはビタミンA酸が必要であり, その変換は不可逆的であるが次いで起こるcAMPによる変換は可逆的であることを明らかにした. 培養下で脂肪細胞へ分化する繊維芽細胞3T3ーL1を用いた研究の結果,リチウムイオンが脂肪細胞への分化を可逆的に阻害することが同らかとなり,食品由来の外的因子が分化の制御因子となりうることが示唆された. また蛋白貭摂取に応答してプロテアーゼの分泌を促進するメディエーターであるモニターペプチドが3T3細胞に対してEGF結合部位を介して増殖促進作用を発揮することを明らかにした.
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