研究概要 |
エネルギー, 医療, 滅菌, あるいは材料科学などの分野において低線量放射線暴露に起因する障害が問題になりつつある. これら予防するための高活性放射線防護剤の開発を目的として, 放射線防護剤の新しい化学的スクリーニングシステムの確立をめざした研究を行い, 次の成果を得た. 1.放射線損傷DNAのモデル化合物となるヒドロキシル化DNAのモノマーであるチミジングリコール, および本年度に主要設備として購入した自動DNA合成装置を用いた防護剤のスクリーニング用プローブ化合物であるオリゴチミジル酸(チミジン5量体)の合成の最適条件を確立した. 2.上記のオリゴチミジル酸水溶液に^<60>Coγ線を照射して放射線分解を行い, 分解生成物の構造を確認するとともにγ線のエネルギー100eVあたりの分解分子数, すなわちG値を求めた. また, チミン水溶液の放射線分解におよぼすチオール類およびアルコール類添加の影響を調べ, 生体防護の分子機構について考察した. その一例を示すと, メタノール, エタノール, イソプロピルアルコール, 第三ブチルアルコール, あるいはエチレングリコールの存在下で, 亜酸化窒素または窒素を飽和させたチミン水溶液にγ線を照射すると, チミン分解のG値がアルコール無添加系と比べて著しく減少すると同時に, チミングリコールなどのヒドロキシル化合物生成の選択率が減少した. 特に, 第三ブチルアルコールおよびエチレングリコールによるチミン減少の抑制効果が顕著で, 亜酸化窒素飽和系におけるチミン減少のG値がそれぞれ無添加系の約1/3および1/4に減少した. 亜酸化窒素飽和系では, 水の放射線分解によりおもに生じる水酸ラジカルと反応しやすい第三ブチルアルコールがチミンに対する防護効果を示したと考えた. 3.63年度には, オリゴチミジル酸をプローブとしてアルコール, アミンなどの放射線防護作用を検討する.
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