研究概要 |
水酸アパタイト[Ca_<10>(PO_4)_6(OH)_2,HAP]は医学,歯学,生化学,材料科学などの様な分野で研究されている. HAPの単結晶育成は難しく,従来の研究は, ほとんど多結晶体によるものである. HAPとタンパク質の吸着アミノ酸のエピタキシー, 骨との結分状態を原子レベルで解明するためには数mm程度の単結晶が必要である. 本研究では, 長管型オートクレーブを用い水熱温度差法によってHAP単結晶の育成を試み,最大1mmのHAP単結晶を得ることができた. HAPの結晶化はモネタイト(CaHPO_4)の加水分解反応を利用した. 反応容器として任意の温度差の付れられる長管型ステンレス製オートクレーブ(内容積1l)を設計, 作製した. このオートクレーブ中に充填率60%で出発原料のモネタイトと蒸留水を入れ, 種結晶としてHAP焼結体を3cm間隔で6個吊した. 脱炭酸のため, 容器内にArガスを12時間流した. またオートクレーブ内にドライアイスを投入して, 炭酸ガス雰囲気下での合成実験を行った. はじめにオートクレーブの上部を180℃, 下部を150℃にした. その後, 上部のみを0.2〜0.01℃/minの各昇温速度で290℃まで昇温し, 6日間保持して結晶を育成した. 結晶は, 到達温度200℃に相当する下から二番目(6cm)のHAP焼結体付近で最も良く析出, 成長していた. 生成した結晶は, 偏光顕微鏡観察の結果, 無色透明な六角柱状を呈していた. 結晶の大きさは, 最大, 長さ1mm, 幅0.1mmであった. ワイセンベルグ写真法により, 良好なHAP学結晶であり, 六方晶系, 空間群P6.ナ_<3.ニ>/m13属することがわかった. 赤外吸収スペクトルを測定した結果, 脱炭酸を行って合成した結晶には炭酸基の固溶は認められなかった. 炭酸ガス雰囲気で合成した結晶では, 水酸基を置換した炭酸基が認められた.
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