緑膿菌P.aeruginosa IID1008のO-抗原多糖鎖の構造研究において、申請者はこれまで緑膿菌に見出されたことのない、D-ラムノースを含有するラムナン結合多糖を独自の方法により単離し、そのラムナン鎖の構造を決定している。また、この多糖は緑膿菌を抗原とするモノクロナル抗体中、比較的広範な緑膿菌と反応するE87抗体と強く交差することを明らかにし、D-ラムノース残基がE87抗体に対する抗原決定基であることを示唆している。E87抗体のように、広範な緑膿菌と反応するモノクロナル抗体は、多剤抵抗性を示す日和見感染病原菌の緑膿菌等に対する免疫療法剤としての活用が期待される。しかし、抗原決定基の特定は不十分であり、さらに、IID10.08以外の、E87抗体と反応する緑膿菌に類似のラムナンが実在するかも不明である。これらの解明が本研究の主目的である。 今年度は、14株の緑膿菌についてE87抗体との反応性を検討し、その結果からラムナン含有量が高いと判定したIID1001、IID1009、IID1012の三株から実際に、ラムナンを単離するための予備的検討を行った。前年度の構造解析の結果から、上記3株の主リポ多糖は、先のIID1008の場合と異なり、4-置換ガラクトサミヌロン酸残基はアミド化されておらず、β-脱離で主多糖鎖を分解後、β-脱離を受けないラムナン鎖を分離する方法は採用できない。そこで、ジアゾメタンでメチル化後、多糖鎖のβ-脱離を試みた。メチルエステルの導入は^1H-NMRにより確かめた。IID1009とIID1012の場合、完全なメチルエステルの導入に成功したが、IID1001では導入はなかった。また、メチル化した前2株のリポ多糖をアルカリ処理に供したところ、IID1009の場合のみβ-脱離による多糖鎖の断片化が観察された。さらに条件等の検討が必要である。他方、メチル化よりアミド化の方が有効との知見もあり、ラムナンの分離は可能と判断する。
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