本研究により、Ti^aおよびTi^bをArg(63)ーIle(64)およびMet(84)ーLeu(85)の計2箇所のペプチド結合を切断することによって得られた蛋白部分とペプチド部分の相互交換によって、新インヒビターを再構成しうることを明らかにした。また、Ile(64)ーMet(84)ペプチドに相当する合成ペプチドを用いても同様にインヒビターを再構成しうることを明らかにした。再構成インヒビターのトリプシン複合体の解離定数の解析の結果、62番目にTyr、71番目にHisを持つインヒビターは最も強い阻害活性を示し、62番目にPhe、71番目にAsnを持つインヒビターは最も弱い阻害活性を示すことが明らかになった。また、62番目にTyrと71番目にAsn、あるいは62番目にPheと71番目にHisを持つインヒビターはTi^aとTi^bの阻害活性の中間の阻害活性を示した。以上のことから、62と71番目のアミノ酸残基はトリプシンとの結合に際して重要な働きをしており、62番目においてはPheよりTyrの方が、また71番目においてはAsnよりHisの方がトリプシンとの結合により強い親和性を示すことが明らかになった。以上の蛋白部分とペプチド部分の相互交換において、ペプチド部分にもう1箇所存在したアミノ酸配列の相違、すなわち74番目のTi^aのSerとTi^bのArgの違いについては、合成ペプチド(74番目がArgの他はTi^aのペプチドと同じ構造を持つペプチド)を用いた再構成インヒビターの阻害活性の測定によりこのアミノ酸残基がトリプシンとの結合に重要な役割を果していないことも明らかとなった。以上の相互交換に用いた21残基のペプチドより3残基短い2種類の合成ペプチドは、再構成インヒビターを生成せず、再構成には一定の長さが必要であると考えられる。
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