植物と蟻にみられる相互適応機構とその進化生態学的意義の解明

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 62480006
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 河野 昭一 京都大学, 理学部, 教授 (30019244)
• 研究分担者: 安部 琢哉 京都大学, 理学部, 助教授 (00045030)
• キーワード: エライオソ-ム / 相互適応 / 蟻型種子散布 / バクセン酸 / 高級炭化水素 / カタクリ / オオバナノエンレイソウ / ヒトリシズカ

研究概要

1.カタクリ、オオバナノエンレイソウ(ユリ科)、ヒトリシズカ、フタリシズカ(センチョウ科)の種子エライオソ-ムの成分化学的な検索を完了した。エライオソ-ムのCHCl_3/MeOH抽出物をシリカゲルクロマトグラフィ-で分画し、各画分についてGC/MS分析を行った。水抽出物については糖並びにアミノ酸の分析を行った。カタクリ種子本体についても、CHCl_3/MeOH抽出物を分取薄層クロマトグラフィ-で分画し、各画分についてGCおよびGC/MS分析を行いエライオソ-ム成分と比較した。さらに、エライオソ-ム粗抽出液並びに分画した各画分を含ませたろ紙片に対する反応性をアシナガアリ、トゲアリ、ヤマトアシナガアリを用いて調べた。2.エライオソ-ムには、糖を含むもの(オオバナノエンレイソウ、ヒトリシズカ)と、含まないもの(カタクリ、フタリシズカ)があり、前者には脂質がほとんど含まれないのに対し、後者には極めて多様な脂質が含まれていた。これら両者共に遊離のアミノ酸は含まれていなかった。この事実から、エライオソ-ムは糖型と脂質型に分類することが可能である。3.分析の結果得られた成分には、上述の糖(フラクト-ス、グリコ-ス、マルト-ス、サッカロ-ス)、ジグリセリド・遊離脂肪酸などの脂質に加えて、高級炭化水素(n-アルケン、n-アルカン)、ステロ-ルなどが含まれるが、注目すべきものは脂肪酸の中では従来植物からはほとんど知られていなかったバクセン酸(C_<18>△11c)と高級炭化水素である。4.アリを用いたバイオアッセイの結果、活性はジグリセリド、遊離脂肪酸、ステロ-ル、高級炭化水素の画分に分散し、Marshal等(1979)がかつて推定したようにジグリセリドの1,2-ジオレインのような特定成分に限定されているのではないことが明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] 河野昭一: "植物と動物の相互適応" 遺伝. 42. 6-11 (1988)
• [文献書誌] Yoshie,F.,Arai,H.,Nakashima,H.and Kawano,S.: "Seasonal changes in nitrogen fractions of Pachysandra terminalis,a forest evergreen chamaephyte" Physiologia Plantarum. (1990)
• [文献書誌] Kawano,S.,Kato,H.and Nishino,S.: "Extrafloral nectaries and ant-plant interaction in Polygonum cuspidatum and P.sachalinense(Polygonaceae)" Plant Species Biology. (1990)
• [文献書誌] Nishino,S.,Yamaoka,K.and Kawano,S.: "Chemical attractants in myrmecochorous seeds of temperate herbs I.Erythronium japonicum and Trillicum Kamtschaticum(Liliacease)" Plant Species Biology. (1990)
• [文献書誌] Nishino,S.,Yamaoka,K.and Kawano,S.: "Chemical attractants in myrmecochorous seeds of temperate herbs II.Chloranthus japonicus and C.serratus(Chloranthaceae)" Plant Species Biology. (1990)
• [文献書誌] Kawano,S.,Connell,J.H.and Hidaka,T.(eds.): "Evolution and Coadaptation in Biotic Communities" University of Tokyo Press, 256pp. (1987)