1.アクチン繊維固定法の改良。昭和62年度の研究において、分裂間期の核の位置決定に直接関与しているのはアクチン繊維であることが明らかにされた。このことはアクチン繊維の細胞内分布を正確に調べることの必要性を示しているが、植物細胞中のアクチン繊維は固定剤に対して不安定で、これまで植物細胞中のアクチン繊維の分布を正確に調べることは不可能であった。そこで昭和63年度はこの点を克服する目的で、一蛋白質の架橋剤であるm-maleimidobenzoyl N-hydrosuccinimide esterを用いてアクチン繊維を安定化させた後、ホルムアルデヒド固定を行う方法を考案し、この方法を用いると固定剤に対して最も不安定な細胞質皮層部のアクチン繊維も充分観察しうることを見出した。この方法で固定したアクチン繊維は微小管染色のための処理に対しても安定であり、その結果、この固定法を用いることによりアクチン繊維と微小管の2重染色が可能となった。 2.改良固定法を用いての細胞骨格の観察。改良固定法を用いて固定したタバコ培養細胞のアクチン繊維と微小管を2重染色し、これらの細胞骨格の核の位置決定における役割を、分裂直前の細胞および分裂期の細胞を対象に調べた。その結果、分裂間期の細胞では核の位置決定には微小管は関与していなかったのに対し、分裂直前の細胞では微小管が核の位置決定に重要な役割を果していることが、この時期の細胞では核と細胞周辺部とをつなぐ細胞質糸中に微小管が存在すること、サイトカラシン処理によりアクチン繊維を破壊しても核の位置は変化しないことから明らかにされた。しかし、分裂期に入ると細胞質糸中の微小管は消失し、細胞質糸中にはアクチン繊維のみが観察されるようになること、サイトカラシン処理により分裂装置の位置は変化することから、分裂装置の位置決定にはアクチン繊維のみが関与していることが明らかとなった。
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