植物細胞のオルガネラ膜において各種のイオンと分子の輸送がどのように行われているか、その分子機構、エネルギー共役の条件、さらに制御機構について理解を深めるための研究を行った。対象は細胞膜、葉緑体包膜、葉緑体チラコイド膜、液胞膜、ミトコンドリア内膜などであるが、葉緑体チラコイド膜と液胞膜について得られた成果について記す。 1.脱共役剤を加えた葉緑体、あるいはNaBr処理やEDTA処理によってCF_1を除去して脱共役した葉緑体チラコイド膜を光照射すると通常の電子伝達にともなうH^+のとりこみとは反対方向の可逆的なH^+の放出がみられた。これらの条件下でみられるH^+放出は通常観察されるベクトル的なH^+の輸送とは異なり、光照射によって可逆的におきるスカラー量の変化であった。脱共役条件下の葉緑体チラコイド膜でみられる光照射によるH^+放出はジチオスレイトールやNーエチルマレイミド(NEM)などのチオール試薬によって阻害された。チラコイド膜表面に存在し、この反応に無関係な非特異的なSH-基をNEMで暗中で前修飾をおこなった後に光照射するとケイ光性NEM誘導体でラベルされるポリペプチドがあらわれる。このことはH^+の放出と吸収に関与しているポリペプチドのコンフォーメーションが変化していることを示唆する。 2.CAM植物の液胞液中のリンゴ酸とpHは大きな日周変動を示すが、リンゴ酸に由来する総負電荷量はほとんど変動せず、各種のカチオンの総正電荷量にも日周変動はみられなかった。液胞への取りこみあるいは排出に際してのリンゴ酸とH^+の量比は1:2で電気的中性が保たれていると結論された。リンゴ酸以外の有機酸が日周変動を示す場合にもアニオンのもつ総負電荷量はほぼ一定に保たれていることがみられた。イオン輸送の分子機構と制御についてはパッチクランプ法などによる解析を進めている。
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