本研究は、構成細胞がそれぞれ自律的に細胞周期制御を行なっているウニ卵割胚に着目してそのS期制御機構を解明することを企図している。細胞内低分子量ヌクレオチドであるジアデノシン四リン酸(AP_4A)がS期開始に関与しており、AP_4Aが核マトリクスに結合すると核マトリクスの構造が変化しDNA複製が始まり、S期の長さはゲノムDNA上の複製開始点の発生に伴う変動によって制御されていると考えて研究を進めている。本研究は、ウニ卵割胚を用いて、(A)核マトリクスのAP_4A結合蛋白質を検策するとともにその作用機構を明らかにして卵割期の特異なS期開始の制御を分子レベルで調べ、(B)S期の長さを決定する要因として発生に伴う複制開始点数の変動を塩基配列のわかった特定遺伝子領域について調べようとするものである。 (A)については、S期開始時における可溶性AP_4Aの急激な減少はAP_4A分解酵素活性の増大によるのではなく、AP_4Aが核マトリクスに結合することによって可溶画分から消失することがわかった。ウニ未受精卵中にはAP_4A分解酵素を抑制する蛋白質因子がある。また、ウニ卵割胚核マトリクスには2種の異なるAP_4A結合蛋白質(23kdaと70kda)が存在する。 (B)については、ウニ胚からアリールスルファターゼを精製してそのアミノ酸配列の一部を決定し、それに基づいて化学合成したDNAをプローブとしてアリールスルファターゼcDNAをクローン化した。さらにこのcDNAを用いてアリールスルファターゼ遺伝子もクローン化し、その塩基配列を決定した。本遺伝子のサイズは約20kbであった。これを用いてアリールスルファターゼ遺伝子領域上に複製開始点を検策する実験を始めている。
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