ホヤ胚における細胞分化のメカニズムを分子生物学的に解明することを目的として、次のような研究を行った。本研究の開始以前にすでに我々はマボヤ胚の筋肉細胞および表皮細胞の分化マーカーとなりうる特異的なモノクローナル抗体を得ていた。そこで本研究ではまず、尾芽胚のmRNAに対するcDNAライブラリーを発現ベクターを用いて作製した。そして特異的抗体を用いてそれらの抗原分子をコードするcDNAクローンをスクリーニングした。その結果、筋肉細胞特異的分子および表皮細胞特異的分子に対するcDNAが得られたが、後者に関してはまで確定的なものになっていない。 筋肉細胞特異的抗原は分子量約220KDaの単一のポリペプチドで、分子量からミオシン重鎖であろうと推定されていた。この分子に対するcDNAを得て、その塩基配列を決定したところ、ラットやショウジョウバエのミオシン重鎖遺伝子のそれと、90%以上(アミノ酸レベルで)の類似性を示した。したがって得られた遺伝子のcDNAはミオシン重鎖のものと結論された。ノザンブロットによって、発生に伴ってこの遺伝子の転写産物がいつから出現してくるかを調べてみると、のう胚期から出現することがわかった。さらに、サザンブロットによる解析から、この遺伝子はゲノムあたり1コピーしか存在しないことが推測された。インサイチュウハイブリダイゼーションによって調べると、転写産物は予定筋肉細胞の割球にのみ出現する。現在、プライマー伸展法によって、この遺伝子の5′上流域を含むプローブの作製を進めている。 表皮細胞特異的遺伝子のcDNAプローブを作製するために、現在もう一回初めから、表皮細胞特異的抗体の作製から取りくんでいる。
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