研究概要 |
本研究ではアゲハ、ハンミョウ2種の昆虫の幼虫、およびハエトリグモの単眼視覚系を対象として、視覚情報の特徴抽出機構の解明を行い、本年度は以下のような成果を得た。アゲハとハンミョウの幼虫はともに、頭部に6対の単眼を持つが、これはアゲハでは色彩弁別にハンミョウでは運動検出に適した構造に分化し,視覚ニューロパイルではそれぞれ色、動きに対する視覚情報が抽出、処理されていることが明らかになった。 ハンミョウの幼虫では視野を横切るものを検出できるように6個の単眼をそれらの視野を重複し、且つ天球全体を見渡せるように配置していた。第2次視覚ニューロパイルのニューロンは前後あるいは左右への物体の動きに選択的に応答し,定常光には応答しなかった。さらに、6個の単眼全体に含まれる約2万個の視細胞は同一の分光感度特性を示し、この視覚系が色彩弁別に関与しないことを明らかになった。他方、アゲハの幼虫では、6個の単眼のわずか42個の視細胞が色彩弁別に必須な分光感度の異なる3種に分化していた。単眼の視野は狭く、天球全体を見渡すものではなく、且つ単眼間の視野の重複も少なかった。第2次視覚ニューロパイルのニューロンは定常光に対しスパイクで応答し、その頻度は刺激光の波長により変化した。さらに、ある波長に対し興奮性、他の波長に対し抑制性応答等の色対比性が見られた。このことから、色に対する視覚情報がアゲハの幼虫の視覚ニューロパイルで処理されることが明らかになった。ハエトリグモの視覚系は4対の単眼からなるが、現在のところ視覚ニューロパイルのニューロンからの記録には成功していない。しかし、行動実験から視覚ニューロパイルには、速い物体の動き、ゆっくりした動き、物体の接近等を検出するための複数の神経回路があることが明らかになった。
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