本研究ではワモンゴキブリの成虫、ハンミョウとアゲハの幼虫、ハエトリグモの4種の単眼視覚系を対象として、各々の特徴抽出機構を解析した。昆虫の背単眼はその構造から形態視や色覚の機能は持たないが、複眼が機能しない弱光下で環境の光の変化を捉らえ、それにより運動出力を調節すると言われている。しかし、単眼から運動系の中枢である胸部神経節への経路とその神経機構には不明の点が多かった。本研究では単眼の光興奮を脳に伝える求心性第2次単眼ニュ-ロン、それを胸部神経節に伝える下降性単眼ニュ-ロン、この2種のニュ-ロンの間を制御する多種感覚性単眼介在ニュ-ロンを生理形態学的に同定し、これらのニュ-ロンの協調により照度の増減による単眼系の運動調節が可能であることが明らかにした。完全変態をする昆虫の幼虫は複眼を欠き、代りに数個の単眼からなる視覚系を持ち、それらは側単眼と呼ばれる。側単眼系は複眼に比べて小さく限られた機能しか持たないと考えられる。ただ、その機能は幼虫の行動に密接に関連したものであると予想された。ハンミョウの幼虫は地面の穴に潜み、頭上を通過する昆虫等を待ち伏せし捕食する。本研究の生理形態学的解析により、この幼虫の側単眼系は対象物の動きを抽出し、色覚等には関与しないことが明らかとなった。他方、アゲハの幼虫の視覚系も側単眼からなるが、その機能はこの幼虫の行動を反映して、ハンミョウの幼虫とは異なると考えられた。アゲハの幼虫が緑色の食草を求めて移動するが、迅速な逃避行動等は行わない。本研究の生理形態学的研究で、アゲハの幼虫は極めて粗い像しか見ることはできないが、その視覚中枢で多数の色対比ニュ-ロンが同定され、色に関する情報が抽出されることが明らかになった。ハエトリグモの単眼視覚系でもハンミョウの幼虫と同様、複雑高度な運動抽出機構が存在することが明らかになった。
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