研究概要 |
1.80才のヒトの色素上皮細胞が高い増殖能とレンズ細胞への分化転換能を保持することを実証し, レンズ細胞への分化転換性が脊椎動物の色素上皮細胞の普遍的な特性であるとする従来の主張を, より明確に基礎づけた. 2.色素上皮細胞がレンズ細胞に分化転換する際の, 前者の脱分化状態の増殖と分化の相関を解析し, 脱分化細胞は平均5ー15細胞世代の間多分化能を安定に維持し, 加令と共により容易にレンズ細胞に分化することを示した. これにより, 私たちの実験システムは, 分化転換に加え細胞の老化と分化との関係を調査するのにも, きわめて有用であることが明らかにされた. 3.ニワトリ色素上皮細胞で特異的に発現されるメラニン粒基質蛋白質の1分子種のCDNAのクローン化に成功し, その全構造を決定した. また, この遺伝子は色素上皮細胞の脱分化と共に不活性化され, 脱分化細胞の再分化に伴って改めて転写されることを明らかにした. これにより, 色素上皮細胞の分化転換過程での, この遺伝子の発現は, すでに明らかにしたレンズ細胞に特異的なδークリスタリン遺伝子の場合とは異る調節を受けていることが明らかにされ, 色素上皮細胞のレンズ細胞への分化転換における遺伝子発現の様式とその制御について, 新な重要知見が加えられた. 4.色素上皮細胞が脱分化するのに伴ってギャップ結合による細胞間連絡が完全に失われ, 脱分化状態からレンズ細胞または色素上皮細胞への分化が促されると, それぞれに特異的なギャップ結合が形成されることをつきとめた. これにより, 分化転換におけるギャップ結合の重要性を示唆すると共に, 各種ギャップ結合分子の遺伝子のクローン化をおこないつつある. 5.イモリのレンズ再生初期過程で, 虹彩のレンズ再生部でのみ一時的に消退する細胞表面分子の存在を示したが, ニワトリ胚の眼についても同様な分子の存在を明らかにすることができた.
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