網膜内層の神経細胞間の信号伝達関数を計測するため、次の実験を行った。2本の細胞内記録電極を用い、2個の隣接する神経細胞(電極先端部分の距離200〜400μm)から、光刺激に対する応答の同時記録を行い、神経細胞のタイプを同定したのち、暗黒中で1方の電極に白色雑音電流を注入し、他方の電極から応答を記録し、相関法により、1次、2次、3次のウィナ-核を求めた。 光刺激に対し脱分極するON型アマクリン細胞とON型神経節細胞間には、両方向性の信号伝達が見られる。その関係は相互に信号非反転性であり、信号伝達の結果、応答のダイナミック特性は変化しないと考えられる。同様の両方向性、サイン非反転信号伝達は、ON型アマクリン細胞間、またON型神経節細胞間にも見られた。光刺激に対し過分極応答を示すOFF型細胞間、また光刺激点灯、消減時にそれぞれ脱分極応答を示す、ONーOFF型細胞間にも同様の両方向性、非反転型信号伝達が見られた。その伝達関数はいずれも50〜60Hzにカットオフをもつロ-パスフィルタ-である。光に対するアマクリン、神経節細胞の応答特性は、20〜40Hzのバンドパスであることから、これらの光応答特性は、カットオフも修正も受けず、同型細胞間で伝達さる。他方、形態学的には神経節細胞と双極細胞間、またアマクリン細胞と双極細胞間には、高密度の反互シナプスが観察される。電流注入実験の結果は、双極細胞から、神経節細胞、アマクリン細胞への信号伝達は観察されるにもかかわらず、双極細胞へのフィ-ドバックはほとんどみられなかった。一方、正反対の光応答を発生するON型とOFF型細胞間に信号の相互干渉がみられ、これら一見単純にみえる細胞の応答も相互制御によって成立していると考えられる。
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