研究概要 |
ヒト直立二足歩行獲得課程法研究として体重心移動に着目し、チンパンジーの個体発達を半縦断的に調べてきている。本年度は3頭のチンパンジーを用い、4歳齢より6歳齢までの資料を得た。実験方法としては床反力計とテレメータを用いた加速度計よりの体重心位置加速度、速度、変位の算出、VTRおよび16mmシネカメラによる姿勢解析とを行った。また静止姿勢時体重心位置測定も行った。 本年度の新たな成果は次下の通りである。1.二足歩行時横方向の重心位置移動については、チンパンジーにおいて一方の足が着地すると同時にその足の側へ移行する。ヒトでは着地後になめらかな移行が行なわれる。このちがいはチンパンジーの股関節が外転し、着地時に胴が着地足側に傾く姿勢をとることと関連すると考えられる。2.体重心の上下移動、前後方向移動については前年度と同じ結果を各年齢層について確認できた。3.静止姿勢時の体重心位置についても各年齢において前年度の結果を個体例を増して追認できた。4.これらの結果により3歳齢より6歳齢までの半縦断的な資料を複数個体例について得ることができた。 昨年度の結果もあわせて考察すると,横方向および前後方向の体重心移動についてはチンパンジーはヒトと異った二足歩行パタンを示す。このちがいは主として姿勢のたがいに基づいており、特に股関節角度のちがいが大きく影響していると考えられる。これらの点でチンパンジーの二足歩行はなめらかな運動を示しておらず、このような運動の克服が直立二足歩行獲得には必要であろう。しかしながら上下方向重心移動についてはチンパンジーはすでに幼年期より順次ヒトと似たエネルギー節約型の二足歩行を獲得していく。この点は注目に値するものである。
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