研究概要 |
昭和62年度の設備備品費でDNAシンセサイザーを購入し,ヒドロゲナーゼの遺伝子配列の変更に用いるDNAを合成した. 一般に酵素の安定性には酵素中のSーS結合が重要な役割をしている. そこでまず大腸菌ヒドロゲナーゼ系遺伝子hydAのSーS結合に関与するアミノ酸のシステインをコードした塩基配列部分の変更を試みた. すなわちシステインをコードする遺伝子部位をセリンをコードする遺伝子に変更した遺伝子配列(17塩基)をDNAシンセサイザーを用いて合成した. 一方,酵素の活性や高次構造は構成するアミノ酸の疎水性,親水性のバランスに著じるしく影響される. そこで,大腸菌hydA中の親水性アミノ酸をコードする塩基配列を疎水性アミノ酸をコードする塩基配列に変更した3種類のDNAを合成した. 以上のように調製した計4種類の遺伝子を含むhydAを大腸菌に形質転換した. この結果,生じてくるヒドロゲナーゼ蛋白質は自然界のものとはアミノ酸配列が異なるために酵素の安定性や活性に変化が生じると期待された. 大腸菌のヒドロゲナーゼの活性中心にはニッケルが含まれていることが知られている. 大腸菌の他のヒドロゲナーゼ系遺伝子hydBはニッケルの輸送,結合に関与している蛋白質をコードしているとされている. そこで大腸菌hydB欠損株を高濃度のニッケルを含む培地で培養したところ,ヒドロゲナーゼ活性が回復した. したがって明らかにhydBはヒドロゲナーゼ合成時にニッケルの取り込みに関与している蛋白質をコードしていることがわかった. このことからhydB遺伝子産物と金属との親和性を改良することによりヒドロゲナーゼの活性の改良,安定化が行えると期待される. このように本年度は,大腸菌hydAに関する蛋白質工学を開始するとともにhydBを蛋白質工学で改良する上での重要な知見が得られた.
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