研究概要 |
まず,カイコに存在する蛋白性インヒビターの標的酵素の一種である硬化病菌Beaiveria bassianaのプロテアーゼの性質を調べた. この菌の生成する酵素(部分精製)の最適PHは約10,分子量は約22,000であり,低濃度のPCMB及び高濃度のPMSFによって活性阻害された. 基質特異性については,天然基質のカゼインの分解活性が最も強く,ヘモグロビン,フィブリノーゲンなども分解したが,γーグロブリン,牛血清アルブミンなどに対する活性は弱かった. また,7種の合成基質に対する酵素活性は非常に低いことが分った. 続いて,カイコの血液及び皮膚中の糸状菌プロテアーゼインヒビターの分離,精製を進めると共に,性質を調べた. Aspergillus melleus及びBeauveria bassianaのプロテーアーゼに対するインヒビターをDEAEーSephacelカラムで分離すると,共にF及びD型の2つの主峰が見出されたが,インヒビタピークの大きさには差が認められた. 一方,皮膚のインヒビターの場分,同じカラムによって主峰F型がみられ,上記両糸状菌酵素を強く阻害した. この結果からも,F型が生体防御の面でとくに重要ではないかと推論した. F及びD型インヒビターの精製のため,5齢幼虫の血液を硫安分画(30〜60%)し,DEAEーSephacellカラムによって非吸着部(F)と吸着部(D)に溶出した. 前者はさらにCMーToyopearlに吸着,溶出させ,ついでUltrogel202カラムでゲル瀘過を行った. 後者についてはSephacel(2回目)及びUltrogel AcAー54カラムによって精製を進めた. 前述のように,F型インヒビターは病知学的観点からの重要性が考えられたので, カイコ血液から精製したこのインヒビターを硬化病菌の一種B.bassianaの胞子に作用させた. その結果,胞子の発芽と発芽管の伸長を抑えることが明らかになった. このような事から,F型はカイコの生体防御作用の一端を担っているものと考えられる.
|