まず、5齢幼虫の中腸組織を用い、カイコのプロテアーゼの存在様式と性質について調べた。種々の可溶化処理の結果から、カゼイン分解プロテアーゼ及びBAPNA分解プロテアーゼは共に同じ様式で膜に結合していると考えられた。すなわち、膜に深く埋め込まれた内在性蛋白質であると結論される。また、PIPLCにより可溶化されないことから、ホスファチジルイノシトールを介してリン脂質に結合したものではないと推論される。 さらに免疫化学的な研究結果から、カゼイン分解プロテアーゼは、中腸細胞内で最初分子量32Kの蛋白質として合成されて原形質膜に結合し、これが消化液の強アルカリ性にふれることにより、27Kの蛋白質として管腔内で存在していると考えられた。BAPNA分解プロテアーゼも42Kの蛋白質として合成された後、同様の過程で分泌されるものと思われる。 一方、カイコの幼虫分化期において、これらのプロテアーゼがどのように活性化してくるかを調べたところ、これらの酵素活性は共に、胚発育の最終期において急激に上昇することが明らかになり、この時期にすでにこれらの酵素が機能し始めていることが示唆された。 プロテアーゼインヒビターについては、昨年にひき続き主として生体防御の観点から検討を加えた。まず、Beuveria bassianaの生産するプロテアーゼの生成量増加とその精製法の改善を行なった。さらに、硬化病菌がカイコに侵入する際、その酵素によって皮膚蛋白を分解するという観点から、カイコの皮膚蛋白抽出法の検討を行なった。そして、B.bassiana及びAspergillus melleus由来のプロテアーゼがその可溶化皮膚蛋白を分解することを証明した。さらに、カイコの皮膚に存在するインヒビターがそれら糸状菌のプロテアーゼ活性を阻害することを明らかにした。
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