カイコの血液ではトリプシンに対するよりもキモトリプシンインヒビタ-活性が高いが、我々は脂肪組織にもこのインヒビタ-の強い活性を示すことを見出した。まず、血液中の高分子インヒビタ-d型、低分子のe及びg型、さらに脂肪組織にのみ認められるg'型の精製を行ない、それらの性質を比較した。低分子インヒビタ-は熱に対し非常に安定であることが分った。血液中のキモトリプシンインヒビタ-の多くは脂肪組織で合成されるものと考えられるが、培養実験の結果、脂肪組織から培養液中へのインヒビタ-の移行がエクジステロンの影響を受けることが明らかになった。また脂肪組織特異的なg'型は電気泳動の易動度やカラムクロマトグラフィ-による溶出位置がe及びg型と似ていることから、g'からe、g型への転換が想像された。これに関連して、可溶化処理後の脂肪組織のインヒビタ-の電気泳動像の比較によって、g'型からe型への変換の可能性が高いものと思われる。一方、脂肪組織には高分子インヒビタ-d型の活性は認められぬが、免疫電気泳動の結果、脂肪組織中にd型の前駆体が存在することが示唆された。 プロテア-ゼについては、幼虫中腸組織のアルカリ性プロテア-ゼの存在様式について、さらに実験を進めると共に、胚発育過程でのこの酵素の出現と分布について調べた。その結果、BAPNA分解性(トリプシン様)及びカゼイン分解性(キモトリプシン様)プロテア-ゼは共に膜分画、可溶分画双方においてふ化直後に急増した。さらに、ふ化後24時間の食桑により、これらの酵素活性は絶食区に比べ約2倍に上昇した。免疫化学的方法により、キモトリプシン型はふ化幼虫において分子量27Kの消化液型、トリプシン型は8日胚に36K、ふ化幼虫では32Kの分子として同定された。
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