ゼニゴケ葉緑体ゲノムの全塩基配列より、特記すべきことはリボソームタンパク質遺伝子rps12が2本のDNA類に分断され存在して発見されたことである。すなわちリボソームタンパク質遺伝子rps12は3つのエキソンと2つのイントロンから構成され、エキソン1とそれにつづくイントロンの一部が60kbp離れて、反対のDNA鎖に見いだされた。これは生体内で初めて発見された新しい分割方式の遺伝子である。この新しい機構はトランス・スプライシングと呼ばれる。本研究は、ゼニゴケ葉緑体よりRNAを単離精製し、種々の合成デオキシヌクレオチドを用いたノーザンハイブリダイゼーション法、また、S1マッピング法により、トランススプライシングのプロセスを明らかにした。rps12エキソン1を含む転写物はその上流のアミノ酸203個からなるORF203から、下流に存在するリボソームタンパク質遺伝子rp20まで転写され、直ちに、ORF203とrps12エキソン1の間でプロセシングが起き、エキソン1を含む前駆体が、一つのトランススプライシングの基質になること、一方、rps12エキソン2およびエキソン3を含む転写物は上流は逆向き繰り返し配列から転写が始まり、下流にはリボソームタンパク質rps7およびNADH脱水素酵素のサブユニット遺伝子ndh2、ロイシン転移RNAまで続き、rps7とndh2の間でプロセシングが起き、rps12エキソン2およびエキソン3、rps7を含む前駆体が、もう一つの基質となることを明らかにした。スプライスされた成熟mRNAは、DNA塩基配列から予測される配列、すなわち、イントロンが削除された配列をもつ合成オリゴデオキシヌクレオチドを、プローブとして検出し、確かにトランスとシス・スプライシングは各々独立して起きていることを明らかにした。さらに、イントロンの2次構造モデルを組立て、ステム・ループIIIに切れ目が生じた通常のグループIIイントロンと同じ構造をとることを確認した。
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