研究概要 |
酵母の性接合は接合型特異的拡散性情報分子(性フェロモン)によって調節される. 異担子菌酵母Rhodosporidium toruloidesの性フェロモン, ロドトルシンAはファルネシル・ペプチド構造を有する特異なシグナル分子である. ロドトルシンAの生合成における前駆体プロッセシング(ファルネシル化およびペプチダーゼによる切断), ならびに分泌には全く新しい機構が関与することが予想される. ゲノム遺伝子およびcDNAをクローン化し, その構造からロドトルシンAの前駆体構造を推定することができた. 四または五分子のロドトルシンAをコードする二種類の遺伝子(それぞれRHA 1およびRHA 2と命名)が存在した. 転写開始点をS1マッピングおよびプライマー伸長法により決定した. これらの結果に基ずいてロドトルシンA前駆体の構造を推定した. 二種類の前駆体はコードするロドトルシンAペプチドの数の違いを除き, 極めて類似していた. 個々のロドトルシンAペプチドはファルネシル化のシグナルと予想される4個アミノ酸より成るスペーサー配列(THRーVALーSERーLYS)を介して繋った構造をとっていた. また, 前駆体における性フェロモン繰り返し配列のアミノ末端側には三個アミノ酸(METーVALーALA)が存在するだけで, 分泌蛋白に普遍的に見られるシグナル配列が存在しなかった. この特異な前駆体構造から, ロドトルシンAは既知の経路とは異なる経路で分泌されると推定した. 性フェロモン生産細胞から単離したmRNAのin vitro翻訳産物中には合成ペプチドにたいし作成した抗体と反応し, 遺伝子から予想される前駆体の大きさとよく一致する分子量約6万の蛋白質が存在した. ロドトルシンA遺伝子は性フェロモンを生産する接合型A細胞にのみ存在し, 相手接合型(a)細胞には存在しなかった.
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