異担子菌酵母Rhodosporidium toruloidesの生活環におけるハプロイド細胞間の性接合は世代交代の重要なエベントである。性接合は拡散性情報分子である性フェロモン(ロドトルシンA)による制御を受ける。ロドトルシンAはファルネシルペプチドの構造をもつ特異な情報分子である。ロドトルシンAの生合成における前駆体プロセシング(ファルネシル化およびペプチド切断)、並びに分泌には全く新しい機構が関与していることが予想される。昨年度、ロドトルシンAのゲノム遺伝子およびcDNAをクローン化し、その前駆体構造を推定することができた。4または5分子のロドトルシンAをコードする2種類の遺伝子(RHA1およびRHA2)が存在した。今年度新たに3分子のロドトルシンAをコードする遺伝子RHA3を見出した。いずれの遺伝子からも含まれる性フェロモンの分子数が異なることを除き、類似の前駆体が作られていることが分かった。前駆体には分泌のためのシグナル配列が存在しないことおよびファルネシル基導入のシグナルと考えられる配列が存在することが大きな特長である。ゲノムDNAのサザーン解析により本酵母の性フェロモン遺伝子は性フェロモン生産株であるA型細胞にのみ存在し、性フェロモン標的細胞であるa型細胞には存在しなかった。両接合型細胞の遺伝子の比較章、性フェロモンをコードする遺伝子周辺のみが異なっていた。これらの結果は性フェロモン遺伝子がいずれの接合型細胞の染色体にも存在し、接合型特異性は転写レベルで調節されているというSaccharo-myces cerevisiaeの結果とは大きく異なる。体酵母の染色体を電気泳動(OFAG)により分離しサザーン法により解析した結果、これら遺伝子は2本の染色体上に存在することが分かった。
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