異担子菌酵母の性フェロモン(ファルネシル・ペプチド)の生合成・分泌機構に関する研究

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 62480057
• 研究機関: 広島大学
• 研究代表者: 宮川 都吉 広島大学, 工学部, 教授 (10116676)
• キーワード: 酵母 / 性フェロモン / ファルネシル化

研究概要

酵母の生活環において、接合型を異にする一倍体細胞は互いに接合型特異的情報分子(性フェロモン)を分泌しその情報を交換し、性接合を行う。
異担子菌酵母Rhodosporidium toruloides、の性フェロモン、ロドトルシンAはフェルネシル・ペプチド構造を有する極めて特異なシグナル分子である。ロドトルシンA生合成における前駆体のプロセシング(ファルネシル化およびペプチダ-ゼによる切断)ならびに分泌にはまったく新しい機構が関与していることが予想された。昨年度までに性フェロモン遺伝子をクロ-ン化、その塩基配列を決定し、その結果予想される性フェロモン前駆体には分泌たんぱく質に普遍的に存在すると考えられていた分泌のためのシグナル配列が存在しないことが分かった。ロドトルシンAはペプチドファルネシル化による疎水性の賦与が関与した、まったく新しい機構により分泌が行われると予想した。そこで本年度はペプチドファルネシル化酵素の検索を行った。
(1)ファルネシル化基質ペプチドのデザイン:予想される前駆体構造からファルネシル化されるシステイン残基に続いて、成熟性フェロモンには無いスペ-サ-ペプチドThr-Val-Ser-Alaが前駆体にはあることが分かった。これがファルネシル化シグナルと予想し、数種ペプチドをデザインし、固相法により化学合成した。N末端アミノ酸のアミノ基を^<125>I標識し基質とした。
(2)ファルネシル基供与体:ファルネシルピロリン酸がファルネシル基供与体となっていると予想し、これを化学合成した。
(3)ファルネシル化ペプチド合成酵素の検索:破砕酵母の菌体から可溶性画分および顆粒画分を調製し、標識ペプチド、ファルネシル基供与体および酵素標品とともにインキュベ-トし、反応産物をブタノ-ル抽出した後、薄層クロマトグラフィ-により分析した。スペ-サ-ペプチドに依存してた修飾が起こり、疏水性の高い産物ができることを確認した。

研究成果

• [文献書誌] Rinji Akada: "Multiple genes coding for precursors of rhodotorucine A,a farnesyl peptide mating pheromone of the basidiomycetous yeast Rhodosporidium toruloides." Mol.Cell Biol.9. 3491-3498 (1989)
• [文献書誌] Rinji Akada: "Genomic organization of multiple genes coding for a lipopeptide mating pheromone of the basidiomycetous yeast Rhodosporidium toruloides." Archives of Microbiology. 152. 484-487 (1989)
• [文献書誌] Tokichi Miyakawa: "Saccharomyces cerevisiae protein kinase dependent on Ca^<2+> and calmodulin." J.Bacteriol.171. 1417-1422 (1989)
• [文献書誌] Yusen Liu: "Calmodulin and calmodulin-binding proteins of Rhodosporidium toruloides,a basidiomycetous yeast." J.Gen.Microbiol.136. 131-136 (1990)
• [文献書誌] Yusen Liu: "Calmodulin-binding proteins of Saccharomyces cerevisiae" Biochem.Biophys.Res.Commun.inpress (1990)
• [文献書誌] 宮川都吉: "酵母の細胞工学と育種" 学会出版センタ-, (1990)
• [文献書誌] 宮川都吉: "最先端の科学を探る" 共立出版,