森林樹木が成長するとその根系の規模も大形となり、やがて根の深さは基岩内にも達して土層と基盤との結び付きが計られること(杭作用)、また隣接木相互間の絡み合いが強固となって斜面土の土層が広い範囲にわたって結合され、その結果不安定地塊と安定地塊の結び付きが計られること(緊縛作用)が期待される・・・。これが従来考えられてきた森林の崩壊防止機能であるが、近年地中の根系構成、さらにはこの間の機構に対して疑問が持たれてきている。 地中における根系構成に関する適確な情報を得ることを目的にして本研究を実施したのであるが、結果としては、上記の従来の見方に対して否定的な内容のものが得られた。とくに崩壊発生の危険性が高いと目される土層の厚い凹形の急斜面では、根系が基岩にまで達する例や、隣接木相互に広く絡み合う例は極めて少なく、杭作用、緊縛作用が共に期待され得ない構成となっていることが見いだされた。根系構成を土壌層の深さ、乾湿環境、樹種、樹形(直径、樹冠径)別に把握したのであるが、土砂災害の面だけではなく生態的にも有用な新知見が得られた。 これまでの崩壊発生機構は斜面の縦断面において2次元的に検討され、根系の効果についても杭作用・緊縛作用を2次元的に評価することが行われてきていた。しかしながら本研究によってこれが否定されるとなると、単木根系のブロック化だけを考慮にいれた機構を新たに提案することが必要になってきたわけである。このことを念頭において若干の崩壊実験を試行したところ、土層内には潜在的にア-チ構造が形成されており、これが底面と側目の抵抗によって3次元的に支えられていることが見いだされた。根系の効果はブロック化によってア-チ構造をより強固にしていることで説明されよう。この3次元的な機構は、山くずれ・地すべりの力学的解析に対する基礎的な新知見として評価される。
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