多倍体胚の発生に関する研究は、胚発生の機構の解明に貢献するとともに、有用な動物を作り出すという実用的見地からも興味が持たれるが、哺乳類では実験的に作り出された多倍体胚はそのほとんどが致死であり確実な生存例は得られていない。本研究は、発生工学的手法により作り出した三倍体マウス胚を正常な二倍体胚と集合させることによってキメラ胚を形成させ、その発生過程を追跡することにより致死の原因を明らかにするとともに、個体発生の制御機構の解明を目指したものである。得られた成果は次のように要約される。(1)三倍体胚の作成条件。ICR系マウス卵子およびICRまたはC57BL/6Jマウス精子を用い、サイトカラシンBを含む培地内で体外受精させることにより高率に第二極体放出抑制型の三前各受精卵を得ることができた。これらの卵は培養により3倍体細胞で構成される胚盤胞に発生することが確かめられた。ただし、その細胞数は対照正常胚にくらべて有意に小さかった。(2)三倍体および二倍体胚を透明帯除去後に8細胞期で凝集させ、キメラ胚への発生を観察した結果、90%以上が単一の胚盤胞を形成し、それらの大部分が3nおよび2nの細胞で構成されていることが確かめられた。(3)このようにして得られた3n【tautomer】2nキメラ胚を偽妊娠雌マウスの子宮へ移植したところ、毛色キメラを有する個体が得られた。ただしその出現率は正常な2n【tautomer】2nキメラにおける出現率よりも有意に低く、また単一毛色個体はすべて2n胚由来の表現型を示した。(4)毛色キメラ個体の骨髄細胞および尾の培養細胞の染色体は大部分が2nであったが、後者については一部の個体で3n各板の出現率が8〜16%に達した。(5)キメラ個体の産子はすべて2n胚由来の表現型を示した。以上の結果から、三倍体胚は二倍体胚とキメラ胚を作ることによって個体発生に至ること、ただし出生後成長した個体における三倍体細胞の寄与は小さいことが明らかになった。
|