研究概要 |
生体膜の基礎構築は燐脂質二重層である. この二重層は一定不変の固定構造ではなく,分子運動を反覆する動的構造である. 本研究は蛍光分子の導入することにより,蛍光異方性からこの動的性質と脂質層中の浮かぶ膜蛋白の機能との関係を明らかにしようとするものである. 生体膜の燐脂質二重層はかなりに不均一な系であり, 多くの膜蛋白が境界燐脂質を周囲に固着させており,膜蛋白を精製して燐脂質層をとり除くと酵素あるいは受容体としての機能を失なう. しかし境界層をはじめとする燐脂質二重層の不均一な構造の動的な性質は未だ充分には解析されていない. 我々はこの性質の解明が膜蛋白と燐脂指層の相互作用解析の出発点と判断した. 昭和62年度には, 既設の装置に科研費による備品を加えてサブナノ秒高速蛍光計を組立てることができた. この装置を用いて,脂質鎖長の異なる燐脂質を混合したリポソームについて, 導入した蛍光分子の異方性の時間分解測定を行なった. 驚くべきことに,脂質鎖長が炭素分子二ヶ以上異なるとき蛍光異方性曲線は特異的時間経過を辿ることが明らかとなった. 即ち,まず速やかにやがて緩かに下降して一定値に近付いたのち上昇に移り50ナノ秒後には新らしい一定値を示したのである. しかもこの曲線は蛍光強度に依存した二成分に分解できることが明らかとなった. 混合比,脂質鎖長,温度をかえて測定した結果,この現象は異なる鎖長をもった燐脂質が十分に混合せず,相分離して存在する,所謂ドメイン構造を形成しているためと結論された. かくて時間分解蛍白異方性の高速測定により,各ドメイン内燐脂質分子の運動にもとづく微視的粘性や,分子運動の揺動角を弁別解析できるという新らしい研究方法の絲口がえられた. これにより境界層燐脂質の動的構造と蛋白との相互作用を解明する基本的方法が確立された. 今後は,この方法を用いて燐脂質と膜蛋白分子の運動及び生理活性との関係を解析していく.
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