研究概要 |
細胞および細胞内の微細な構造は燐脂質二重層によって仕切られている。膜蛋白は部分的に折り畳まれてこの脂質層に保持されている。本研究ではこの脂質を変化させたとき膜蛋白の動的な微細構造に発生する変化をラット心筋の筋小胞体(SR)を対象として検討した。蛋白の-SH基に選択的に結合して蛍光を発するアニリノナフチルマレイミド(ANM)をSR蛋白と30℃に孵置して反応させ、その蛍光の性質を自家製の時間分解蛍光異方性測定装置によって測定した。膜燐脂質の変更には脂質titration法によりcholateを用いて、脂質二重層の主成分であるフオスフアチヂルコリン(PC)の鎖長の異なる燐脂質分子(18:1,16:1,14:1,12:0)をSRへ導入し、充分に洗浄後25Cで測定に供した。燐資質が置換されていることは脂質親和性蛍光物質ジフェニルヘクサトリエン(DPH)を用いて脂質層の粘度と揺動角を測定することにより確認した。これらの燐脂質で置換すると、脂質層の粘性はPC18:1で0.78ポアズ,12:0のPCによって0.53ポアズと低下した。PCの鎖長が短縮するとSR蛋白に特有なCa^<2+>-ATP分解活性は減弱した。鎖長が短縮して膜粘性が減少すると、SR蛋白の運動性は大きくなることが、時間分解蛍光異方性減衰の促進と定常光異方性値の低下として認められた。即ち、ANM蛍光の異方性減衰曲線のオ-バ-オ-ルの半減期はPC18:1を導入したとき30nsecであり、PC14:1導入で25nsecへPC12:0を導入で13nsecへ減じた。これはSR蛋白の構造の中で少なくともANMの結合した部位一帯の回転穏和が、粘性低下ともなって容易になったことを示している。これらの結果は境界燐脂質をはじめとする脂質二重層の厚さと物理的性質とがSR蛋白の動的微細構造の維持に寄与していることを示唆している。今後、種々な生体膜について膜蛋白と脂質二重層の関連を研究するうえで有力な方法になると考える。
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