ラット脊髄より、厚さ約120μmのスライスを作製し、ノマルスキー顕微鏡下で、運動ニューロン細胞膜を覆う結合織を除去して、パッチ記録を行う方法を開発した。(1)抑制性シナプス電流と、抑制性伝達物質候補glycineの作用の比較をおこなった。(1)自発性抑制性微小シナプス電流とglycine誘発電流の反転電位の一致、(2)glycineによるglycine受容体脱感作に際して抑制性シナプス電流の消失、(3)単一glycineチャネルの平均開口時間と自発性抑制性微小シナプス電流の下降時間が一致することからglycineが抑制性シナプス電流の伝達物質であることが強く示唆された。自発性抑制性微小シナプス電流の平均振幅は、glycine誘発単一チャネル電流の約20倍に相当した。Glycine誘発電流の容量反応曲線の傾きから求めたglycineと受容体の反応は三分子反応と推定された。したがって、僅か約60分子のglycineによって、最小単位の抑制性シナプス素量が生じることが明らかとなった。この値は、末梢シナプスの推定値2000分子と比べて、圧倒的に小さい。 (2)セロトニンの運動ニューロンにたいする作用機構の解析をおこなった。セロトニンは(1)静止電位において、脱分極もしくは内向き電流を誘発し、運動ニューロンに直接、興奮作用をおよぼすことが明らかになった。(2)セロトニンの作用の電位依存性は内向き整流の性質を示し、内向き整流を広範に抑制する事の知られるCs(細胞外、10mM)により完全に抑制され、Baによっては影響されなかった。(3)運動ニューロン固有の内向き整流は、Csにより抑制され、Baに影響されなかった。(4)セロトニン誘発電流と運動ニューロン内向き整流の反転電位は一致した。したがって、セロトニンは運動ニューロン固有の内向き整流を活性化して、興奮作用を発揮すると結論された。
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