研究概要 |
ネコの上小脳脚交叉切断後,切断された軸索はその断端の近傍あるいはもっと細胞体に近い部位から発芽するが,再生が成功するのは少数例であり,大多数の例では失敗に終わる. その違いは,恐らく発芽して伸びてくる軸索の周囲のミクロな化学的・物理的環境の差異に起因するものと思われる. 本研究では,そのような環境を人為的に変えて軸索の再生を成功に導くような条件をつくり出すことを目的とし,小脳遠心路の再生に及ぼす種々の薬物(5ーフルオロデオキシウリジン+アラビノシールシトシン,ノルエピネフリン,サブスタンスP,ラミニン,フィブロネクチン)の効果を調べた. 成ネコを用いて,その上小脳脚交叉を切断し浸透圧ミニポンプにつないだステンレス細管を切断部に留置して持続的にそれらの薬物をそれぞれ5〜11匹の動物に投与した. 効果の判定は小脳核へのHRP注入によって順行性に標識される線維の多寡と小脳ー大脳皮質応答の有無により行った. フィブロネクチン以外の薬物を投与したネコでは,一部に痕跡的な数の再生線維が非交叉同側性に脳幹を上行するのが認められたほかは,標識された線維の大部分は損傷部のグリアの瘢痕に面して留どまりそれ以上伸びていなかった. 一方,フィブロネクチンを投与した11匹のネコのうち5匹において切断部を通過し,あるいは切断部を迂回して伸びて対側の赤核や視床前腹側核ー外側腹側核群に終止する再生線維が認められた. そのうち特に再生線維の数が多かった3匹では著明な小脳ー大脳皮質応答が誘発された. このようにフィブロネクチン投与例では,再生の成功する割合が切断のみで薬物を投与しなかった場合(3/19)よりも多く,本研究結果は,フィブロネクチンが小脳遠心路の再生に対して促進的に働くことを示しているように思われる.
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