ネコにおける小脳視床路切断後の軸索の再生に関する研究

1989 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 62480107
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 川口 三郎 京都大学, 医学部, 助教授 (70024635)
• キーワード: 小脳遠心投射 / 軸索再生 / 胎児脳移植 / 異種移植

研究概要

成ラット上小脳脚交叉切断後、切断部へのラット胎児脳組織の移植が小脳遠心路の再生を著名に促進するとの前年度の研究成果は、胎児脳組織に個体発生時の線維束だけでなく、再生時の線維束をも導くような手掛かりが存在していることを示唆している。今年度はその問題の解明に向けて、(1)胎児脳組織は異種移植でも効果を発揮するか否か、(2)ラット新生児の小脳遠心投射は切断後再生するか否かを調べた。(1)成ネコ(n=7)の上小脳脚交叉を脳幹正中面で完全に切断し、切断部へラット胎児の相同部位を含む脳組織を移植し、宿主の拒絶反応を抑えるため、術前2日から術後の全期間に亙って毎日免疫抑制剤シクロスポリン(10mg/kg,i.m.)を投与して、術後15-29日目にWGA-HRPの順行性標識法により小脳遠心投射の検索を行い、また、小脳-大脳皮質応答を指標にして機能的結合の有無を調べた。結果は7匹中3匹において著名な再生が認められ、機能的結合の形成されていることが確認された。本実験で再生の成功した割合が切断のみで放置した場合(3/19)より有意に大きいことは、胎児脳組織が異種移植であっても有効であることを示しており、ラット胎児脳組織から成ラットと成ネコに共通の、軸索の再生に対して促進的に働くような因子が出されている可能性を示唆しているものと考えられる。(2)新生児脳組織の移植は無効であるが、移植組織の生着の問題があるため、そのことは直ちにそうした因子が新生児脳組織に欠落していることを意味しない。それで、ラット新生児の脳幹にU字型タングステン線を正中面で脳底に達するまで押し込み上小脳脚交叉を完全に切断し、3〜4週後に小脳遠心投射を上記と同様な方法で調べたところ、生後3日目までの切断ではほぼ全例において著明な投射の存在が認められ、その投射の少なくとも一部(恐らく大部分)は、新生ではなく再生したものであることが小脳核細胞の切断前・後の逆行性二重標識法により証明された。

研究成果

• [文献書誌] Kawaguchi,S.,Murata,M.,Kurimoto,Y.: "Ontogenesis and regeneration of the cerebellofugal projection in the rat." Neurosci.Res.Suppl.9. S51 (1989)
• [文献書誌] Kawaguchi,S.,Murata,M.,Kurimoto,Y.: "Regeneration of the cerebellofugal projection after transection in neonatal rats." Jpn.J.Physiol.39 Suppl.S130 (1989)
• [文献書誌] Kawaguchi,S.,Murata,M.,Kurimoto,Y.: "Ontogenesis and regeneration of the cerebellofugal projection in the rat." Biomed.Res.10 Suppl.2. 143-145 (1989)
• [文献書誌] 川口三郎: "哺乳動物における中枢神経伝導路の再生" 蛋白質核酸酵素. 35. 399-408 (1990)
• [文献書誌] Kawaguchi,S.,Murata,M.,Kurimoto,Y.: "Ontogenesis of the cerebellofugal projection in the rat." Neurosci.Res.
• [文献書誌] Okuda,B.,Kawaguchi,S.,Yamamoto,T.,Samejima,A.: "Changes in the cerebello-cerebral response in the parietal cortex following ablation of the motor cortex in the cat:early occurrence and persistence" Neurosci.Res.
• [文献書誌] 川口三郎(分担執筆)他23名: "可塑性神経回路の研究の進歩" 朝倉書店,