ネコやラットの小脳遠心投射を切断後、切断部に人為的操作を加えてその再生に及ぼす効果をWGA-HRPの順行性標識法と小脳-大脳皮質応答の解析により調べ、哺乳動物における中枢神経伝導路の再生を促進するような条件や因子に関するいくつかの新知見を得た。(1)成ネコの上小脳脚交叉を切断し、切断部に浸透圧ミニポンプを用いて持続的に種々の薬物(5-フルオロデオキシウリジン+アラビノシ-ルシトシン、ノルエピネフリン、P物質、ラミニン、フィブロネクチン)を注入してその作用を調べたところ、フィブロネクチンが小脳遠心投射の再生を促進することが判明した。(2)成ラットの上小脳脚交叉を完全に切断し、切断部にラット胎児の相同部位、すなわち上小脳脚交叉あるいはその形成の予定されている部位を含む脳組織を移植したところ、実験例すべて(9/9)において著明な再生が認められ胎児脳組織の移植が小脳遠心投射の再生を促進する上に極めて有効であることが判明した。(3)成ネコの上小脳脚交叉を切断し、免疫抑制剤を投与しつつ、切断部へ相同部位を含むラット胎児脳組織を移植したところ、異種移植であっても再生を促進する効果が認められた。(4)ラット新生児の上小脳脚交叉を完全に切断し、3〜4週後に小脳遠心投射を調べてみると、生後3日目までの切断ではほぼ全例において著明な投射の存在が認められ、その投射の少なくとも一部(恐らく大部分)は、新生ではなく再生したものであることが判明した。本研究結果は成熟哺乳動物の中枢神経伝導路であっても損傷部の条件さえ良ければ著明な再生を引き起こすことは可能であり、その条件を作り出す上に相同部位を含む胎児脳組織の移植が極めて有効であることを明らかにした。恐らく個体発生過程で線維束を導くような因子が胎児や新生児の脳組織に存在し、それが再生過程でも働くのではないかと思われる。この因子の解明は今後の課題である。
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