研究概要 |
脳波上で睡眠パターンを示すネコ下位離断脳標本の大脳皮質運動野から紡錘波とそれに対応するニューロン活動を記録し, 以下の知見を得た. 1)紡錘波と皮質ニューロンの細胞内電位を同時記録して両者の対応関係を定量する方法を決定した. 即ち, 紡錘波に関してはリズム波の陽性成分と陰性成分の振幅, 細胞内電位についてはリズム波に対応する膜電位変化を計測した. さらに, 細胞内電位でリズム性因子を除去した後の背景的膜電位変化を計測した. このような計測を紡錘波の全経過にわたって行い, 各パラメーター間の関係を調べることとした. 2)以上の方法によって, まず紡錘波と皮質第5・6層ニューロン(速および遅錐体路細胞を含む)の記録から両者の関係を定量的に解析した. 第1に, 主に陰性波から成る第2型の紡錘波に対して生ずる脱分極性電位リズムの性質を検討した. 即ち, 自発性または細胞内通電による膜電位レベルの変化がこの脱分極性電位に及ぼす効果を調べ, それが皮質表面刺激によって引き起こされる樹状突起性シナプス電位に類似した性質を示すことを確かめた. この結果から, 陰性波に対応する脱分極性電位は興奮性シナプス後電位であり, 樹状突起上のシナプス入力に由来すると結論した. 3)次に紡錘波中の陽性波(P)および陰性波(N)の両者についてそれらの振幅と, それぞれに対応する第5・6層ニューロンの興奮性シナプス後電位(EPSPs)の振幅との間には, 正の比例関係がみられることを確かめた. また, 紡錘波の全期間を通じてPとNは, 対応するEPSPsとともに, それぞれれに特有の時間的消長を示した. これらの結果に基づいて, 紡錘波のPとNは2種類の皮質下性入力に由来し, それぞれに対する皮質ニューロンの興奮性反応を主な発生源とすることを示唆した.
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